肌に付着した菌叢からの個人特定

 

これはアドベントカレンダーの企画の記事です。これを機にブログなどはじめてみようかなと。

仕事柄、比較的よく論文を読み、ほほーと思っているので、今年一番面白かった論文というのを決めるのは難しいのですが、クライムサスペンスドラマ好きな私にとっては、肌に付着した微生物の菌叢から個人を特定しようとした論文が、個人的興味と重なり印象に残りました。

論文はコロラド大学の環境系の研究室からPNASに発表された論文、

Forensic identification using skin bacterial communities.です。

 

では見ていきましょう。

 

まず最初のデータは、キーボードに付着した菌叢と指先の菌叢の比較。20歳から35歳、過去6ヶ月の間に抗生物質をとっていない健康な人。3人のうち二人は同じオフィスで勤務。キーボードは個人が専用で利用しているもので、サンプル採取30分前は誰も触れていないもの。16S rRNAを454でシークエンスしています。

 

 

論文中Fig. 1は以下のとおり。PCoAで距離はAがUnweighted UniFrac、BがWeighted UniFrac。

 

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 おおお、結構似てる~ とちょっとびっくりしました。

 

そして次は、どのぐらい肌の菌叢の状態が保存されるのか。サンプル保存期間(DNA抽出までの期間)を3日と14日、そしてそれぞれ20度と-20度で保存。サンプルは健康な大人2人のわきの下から菌叢の採取。肌が選ばれているのは、2009年に発表された論文で肌が腸内や他の場所に比べて個人間の多様性が高い場所であるからで、さらにわきの下は、ある程度の菌の量が期待できるからという事でした。 たしかにわきの下にはいっぱい居そうですね。。。

 

そして結果が以下、論文のFig 2. こちらもPCoAでAがUnweighted, BがWeighted のUniFracが距離。日が変わってもPCoAは割と綺麗に分かれている。CはGenus (gen), Family (Fam), Order レベルでのrelative abundance. レベルにもよりますが、個人内の変化は個人間の変化よりも小さいのだなという印象。 

 

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これまでの結果は数人の結果なので、次のデータでは9人からその人が使っているコンピュータマウス表面から菌叢採取、そしてマウスを使っていた手のひらからも菌叢採取。マウス所有者の手のひらとマウス表面の距離を計算し、さらにその9人のマウスとデータベースに登録されている270人分のデータを比較して距離を計算。距離は、Unweighted UniFracとweighted UniFrac。赤がUnweighted、青がWeighted。横軸がサンプルの9人。色がついてないシンボルは、マウス所有者の手のひらと、その人が使っていたマウス。色が付いているシンボルは、マウス表面と270人の手のひらのデータ。

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つまりマウス所有者の手のひらと、マウス表面の菌叢は、マウスとデータベース270人分の類似度よりも似ているという事を示している。F8、M2のWeightedはちょっと似ているけれど、エラーバーにかかっていないので、ぎりぎり区別はできそうな雰囲気。

 

この論文は2010年の論文で、たまたま今年読んで個人的にほほーとなった論文でした。この論文を引用している論文は2015年12月19日段階で236本(Google Scholarしらべ)。いろいろ面白そうなものがあったので、またこのブログで紹介したいなと思います。

 

こういったメタゲノム解析以外にも、NGSを使った個人鑑定に関連するものとしては、STR(Short Tandem Repeat)を見つけるものや、ミトコンドリアのHyper-variable Region を読んで個人を特定しようとするものなどもNGSで行われているので、機会を見つけて書いていければと思います。

 

と、最新の知見でなくて恐縮ですが、こういった技術がいずれは法医学の現場で使われるのかな~など思いをはせていました。真実は小説より奇なり。論文は小説よりも面白いなと思うことがあるので、冬休みにかけていろいろ読んでみたいですね。

 

ではまた。